最初にお施主さんが尋ねて来られたのは2020年の春だった。それから敷地探しの相談を受けつつ漸く土地が決まったのはおおよそ一年が経った頃。まず最初に敷地に拘られるお施主さんは沢山いらっしゃる。どのような敷地であっても、その状況を生かした住宅設計はできるが、良い敷地を選択した方がより良いことには変わりない。だから、敷地選びの相談も喜んで受けている。
設計を始める前の打ち合わせは、他愛もない話から始まり少しづつご要望を膨らませていく。この住宅では「ひんやり感」という言葉が大きなキーワードとなって頭の中に残っていった。間取りなど形のことよりも空気感が大切だとすぐに感じた。そんな、ひんやり感という漠然としたご要望であっても頭を悩ませれば形になってしまうので設計やデザインは面白い。もちろん間取りについても、お施主さんとお話しした事をいろいろな角度から総合的に考えて細かく練っていった。心地よく、暮らしやすく、寛ぎやすく。
ひんやり感をつくる為に、まずは光について検討を始めたが光の扱い方は設計の中でも特に難しい。陽当たりの良い窓から直射日光がサンサンと入りすぎないように、でも入らなくても困るので丁度いい塩梅の開口バランスを模索した。そして、光と陰に気を配りながらひんやり感へと繋がっていくように考えた。
次に、室内が外まで広がっているかのような、または窓を開け放ってキッチンに立てばまるで外にいるかのような空間をつくる為に、平面計画はコの字型のプランとした。その目的は庭の植物からひんやり感を得ること。同時に、カーテンなどのスクリーンを開けたまま暮らせるようになり、実際の床面積以上の広がりを手に入れた。
空間のあちこちに家族それぞれの居場所があり、付かず離れずの距離感で過ごす事ができるようにしたいと考え、間取りは壁で囲われた部屋を寄せ集めるのではなく、家全体の空間がだらりと繋がるような平面プランにした。
エントランスはひっそりと控えめに。
石の敷き込みはお施主さん自身の手によるもの。
写真・文:TAKANORI TOGO
大きな本棚がある図書室。
庭の植栽はお施主さんが少しづつ増やしている。
どこにいても緑がすぐ側に。
この住宅にはカーテンなどのスクリーンは少ない。
各エリアが流れるようにつながる。
光溢れる浴室と小さなアトリエ。部屋にこもって作業するのではなく家族の存在を感じられる大きなボリュームの片隅で趣味を楽しめるスペース。
キッチンから見える中庭。
長いキッチンカウンターとダイニング。溜まりはリズミカルに。
キッチンと食堂と図書室に明確な境界はない。鉄骨階段の踏み板は無垢の杉板。
アトリエと洗面コーナー。
浴室の壁はモルタル、床はタイル張り。ご家族にとって居心地がいい場所を散りばめた。一般的にイメージされるようなリビングルームは無い。
囲まれ感が心地よいメインベッドルーム。空気が流れる道となる室内の開口。
小さな学習コーナーは、子供室の中とも外とも言えないエリアにある。その印象は建具の開け閉めによって変化する。
浴室の床はヘキサゴンタイル。
専用住宅:木造2階建て
敷地面積:242.57㎡(73.37坪)
延床面積:112.00㎡(33.88坪)
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