この住宅が建つ敷地は町と森の境界に位置し、目の前には山が迫る環境です。敷地の周囲は静かで住宅も数少なく互いの距離も離れている為、プライバシーを保つ事よりも周りの環境を生かした暮らしを念頭に住宅の設計をすることが重要だと感じました。ここでの生活は、日常的な草むしりや庭木の手入れなど外部との関わりを深くもちます。したがって建物の内部と外部の行き来が多くなる事は元より、お施主様からは大勢のお客さんを招く事があるのでそれにも対応したいとの要望もありました。
これらの生活状況を考え、内外の移動を抑制しない、つまりは人が出入りしやすい境界をつくることを計画の主軸としました。境界は世の中に様々な形として存在しますが、日本の住宅においての大きな境界の一つに靴の脱ぎ履きをするラインがあります。それは玄関の上り框であったり掃き出しの外部サッシであったりします。境界とは物理的なものに付随する精神的な変化と捉えており、これを楽にすることで内外の行き来が活発になるはずです。これらを踏まえて設計・デザインを進め、主に過ごす場として土足で使用する広い土間を中心に据えた平屋の家が完成しました。
写真・文:TAKANORI TOGO
玄関の開口部はフルオープンになり、小上がりの床に腰掛けて寛ぐ場としても使える。3〜4人が腰掛けると井戸端会議が始まる。
玄関の開口部に切り取られた風景。
平面計画(間取り)は過去の日本の住宅において多く見られた田の字型を基本形とし、床や壁を過去の形式とは異なるさまざまな仕上げに置き換えることによって、各スペースの関係を現代の生活に合うように変化させようと考えました。畳やフローリングの床を土間に置き換え、外部と内部をシームレスに繋げると共にここで日中の生活の殆どが完結できるようにデザインしました。また、コンパクトな平屋の家ではありますが、広い土間スペースによって実際の大きさよりもダイナミックな空間の広がりを感じることができます。
過去の田の字型住宅で間仕切りとして使用された襖などの建具は耐震性を考慮して間仕切り壁に置き換えていますが、通風を確保する為にその間仕切り壁に開口部を設けました。雰囲気は、凛として静かで柔らかい光が差し込む和の空間ですが、現代的解釈による日本の暮らしを形にしている為、一般的に想像される和の空間ともちょっと異なるかもしれません。
畳室と寝室の間の開口部は主に風を通す役割として設けた。通常は障子を閉じる。
キッチンと土間の間の棚は、物を置くことによって目隠しの効果をもつ。
キッチンと新しい食器棚にビルトインした古い水屋箪笥。
専用住宅:木造平屋建て
敷地面積:388.33㎡(117.47坪)
延床面積:86.65㎡(26.22坪)
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