「二つの要望」
住宅街の緩やかな坂を上がって行くと、他の住宅に囲まれた角地にこの建物は建っています。設計を始めるにあたって大きな要望が二つありました。一つ目は、大きな軒下のような空間でくつろいだり子供達と工作ができること。二つ目に、元気な子供達が暴れてもへこたれない丈夫な建物でした。それは同時に長期的に愛着を持って住める住宅にしたいとの事でもありました。また、お施主様との話を進めるうちに、家に居ながらにして別荘にいるかのような非日常的な過ごし方ができる事が大切だと感じました。住宅の設計を開始してすぐに、丈夫で長持ちする自然素材の家にしようと決めました。
外壁と塀の素材を統一する事により一体感を生む。室内と室外の境界を曖昧にする役割も担う。
「大きな軒下のような空間の回答」
住宅を設計する際には、目新しさだけを狙ったものではなくストレスなく普通に住めるようにデザインする事を第一に考えていますが、同時に保守的になりすぎない事にも気をつけています。
軒下のような空間とは何なのかを考えることから始めましたが、雨をしのぐ事ができて開放的な場所であるという結論に至りました。日常生活の中ではあまり縁が無い軒下という場ですが、軒下のような空間が沢山の時間を過ごせる家の中心の場として機能することを目標に検討を進めていきました。
そして、南北に大きな開口部を設けた開放的な広い土間を設け軒下のような感覚をつくり出そうと考えました。この土間は幅5m以上の建具を全て開け放てば軒下空間のようになりますが、網戸を閉じれば開放的な内部空間として過ごす事もできるようにしました。そこに中庭を隣接させて土間と動的な境界が無い一体感のある空間を創り出し、ここを住宅の中心となる場に位置付けました。また、中庭を囲むようにその他の空間や塀を配置することにより周囲の住宅からの目線が遮られプライバシーが保たれるように配慮しています。
土間の南北はフルオープンの木製サッシ、夏場は全面網戸を閉じて過ごせる。向こう側は応接室。
土間の仕上げはモルタル洗い出し。天井にはハーレクインの壁紙を使用した。蒔ストーブはピキャンオーブン。すっきりとしたスペースであるが、幅4mの収納も備えている。
横になって寝る事もできる程の幅があるソファーの角は特等席。全開口のコーナー窓と壁一面の本棚を設けている。
土間の書斎の天井板は2階の床板の裏を見せている。杉板の厚さは36mm。
階段室の家事コーナー。ニナ・キャンベルの壁紙を壁から天井へと連続させて貼った。杉板と花柄の壁紙という異色の組み合わせだが非常に綺麗である。
約1.5mづつスキップする各階と階段。各階の近さを感じる。階段は少々凝ったささらの形状とし、手摺については手触りの良い断面形状としている。段板は杉の無垢材で足触りも良い。
幅6mのキッチンカウンターと長さ3.5mのシンク一体の食卓はオリジナルで製作した。テーブルの天板とカウンターの扉は無垢のチーク材を使用。
棚にはさまざまな道具も吊り下げ可能。カウンターでの作業をスッキリと。壁のタイルは、ガラス製モザイクタイル業界をリードするイタリアのメーカー「ビザッツァ(BISaZZa)」のガラスモザイクタイルを使用している。まるで壁一面が大きな一枚のガラスのような印象である。グリーンのガラスモザイク・ステンレス・チークの無垢材、これら三種類のコントラストが美しい。
リビングからダイニングまでを貫く照明ラック。リビング上部の開口部はベッドルームへの通気口。
「長期的に住む為の装飾と機能の分離」
長期的に愛着を持って住める家の回答は、共に時を刻み愛着が湧くであろう無垢材を主な素材として使用し、またそれらのメンテナンスを行いやすい仕様にすることとしました。
最終的には構造材から仕上材までの殆どに無垢の杉を使用し、外壁においては「装飾」と「機能」を完全に分ける仕様としました。厚さ40mmの無塗装の杉板を5mmづつ透かしてビス留めして装飾的外壁とし、その下に通気層を設けガルバリウム鋼板を貼った機能的外壁を隠しています。何十年か後にビス留めの外壁の杉板を外して鉋をかけ、それを再び貼り直して蘇らせるという想定をしていますが、これは「装飾」としての杉板を外しても、「機能」としてのガルバリウム鋼板の壁で風雨はしのげる事により成り立ちます。板厚は40mmもあるので数回は鉋をかける事も可能でしょう。また、一部が傷んでもその部分のみを交換する事も可能なので、補修も容易です。内部においても床板は厚さ36mm、壁と天井も杉の無垢材なので同様の事が可能です。つまり、新しい材料を使用しての補修の必要が無くなり、容易な手入れで長年に渡り住み続ける事ができるという仕組みです。
厚い杉板を使用する発想は、基本プランの計画中に訪れた製材所の小屋の外壁に無塗装の曳きっぱなしの厚い杉板が使われていた事に始まります。無塗装でも赤身であれば数十年は持つとの話を聞いた事、外に立て掛けてある杉板の日陰部分は夏場でも涼しい事などを体感し、厚い板を立てかけるような感じで外壁を作りたいと考えました。こうして、完成した自然素材の家は杉板の質量を感じられる迫力のあるものとなりました。
写真・文:TAKANORI TOGO
間仕切り壁は30mm厚の杉板のみ。
ベランダの手摺を縦型ルーバーのような形状にする事によって、道路からの目線は遮り中庭は見えるよう工夫している。洗濯室には大きな洗面台と物干しポールもあり、洗濯からアイロンがけまでの家事もこなせる。
専用住宅:木造2階建て
敷地面積:299.34㎡(90.55坪)
述床面積:220.00㎡(66.55坪)
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